書評:『RDG レッドデータガール はじめてのお使い』荻原規子/角川書店

荻原規子、ひさびさの小説。『西の善き魔女』シリーズの、いわゆる少女小説な世界にはちょっとついて行けない私にとっては、久々に読み応えのある荻原規子ファンタジー作品だった。

山伏の修験場として世界遺産に認定される、玉倉神社に生まれ育った鈴原泉水子は、宮司を務める祖父と静かな二人暮らしを送っていたが、中学三年になった春、突然東京の高校進学を薦められる。しかも、父の友人で後見人の相楽雪政が、山伏として修行を積んできた自分の息子深行を、(下僕として)泉水子に一生付き添わせるという。しかし、それは泉水子も知らない、自分の生い立ちや家計に関わる大きな理由があったのだ。

ミステリー小説読みとファンタジー小説読みはけっこうお互い反目している気もしていて、どちらもよく読むという人はあまり知らないのだけれども、個人的にはどちらも好き。森博嗣作品などが気に入っている理由は、その両者のバランスにもあるのかもしれない。
本作はちゃんと1つの作品として完結しているのだけれども、絶対に続きを書いて欲しい一冊。現代を舞台としながらも、荻原規子らしい、血統と秘められた力に翻弄されながらも個として成長していくストーリーは素直に楽しむことができる。
ファンタジーに、世界を変えてしまうような大きなテーマはいらない。たとえ、そうしたテーマを扱うとしても、視点は個人であるべきだ。そういう意味で、荻原規子作品はとても質が高いファンタジーだと思う。
ぜひ夏休みに読むことをお薦めしたい一冊。