書評:『実況LIVE 企業ファイナンス入門講座〜ビジネスの意志決定に役立つ財務戦略の基本』保田隆明/ダイヤモンド社〜(2)

(1)の続きです。書評なんですけど、一応。

実況LIVE 企業ファイナンス入門講座―ビジネスの意思決定に役立つ財務戦略の基本

実況LIVE 企業ファイナンス入門講座―ビジネスの意思決定に役立つ財務戦略の基本

  • PERT4 M&Aの実務と企業価値の算出方法〜買収案件をどう評価し、どのようなスキームを組み立てるか〜
    1. 株式市場の評価に耳を傾ける
    2. DCF(ディスカウンテッドキャッシュフロー)法による企業価値評価
    3. DCF法を用いて実際に企業価値評価を行う
    4. 買収効果をどのように測るか
    5. PERやEBITDA倍率(マルチプル)による検証
    6. さまざまな買収ストラクチャーを検討する
    7. M&Aのプロセスと外部専門家の利用

PERT3までは自社の成長プロセスに合わせたファイナンス戦略を扱ってきたが、PERT4では企業間ファイナンス最大の山場といえる買収に関連するテーマが扱われている。自社の市場評価、買収ターゲットの選定ポイントやシナジー効果範囲の検討方法などが紹介される。シナジー効果の分析手法として用いられるSWOT分析(Strength[強み]/Weakness[弱み]/Oppotunities[機会]/Threat[脅威])を用いたマトリックス分析方法、SWOT分析によってマトリックス化された自社・買収ターゲット企業における統合シナジーポイントの明確化などは、買収判断をより具体的に検討開始する判断基準として重要な意味を持つ。そして、実際に買収が行われた場合に想定した事業計画シナリオを設定、楽観的・現実的・悲観的の3段階で検討されたシナリオに基づいて予想売上高と予想営業利益、そして将来キャッシュフローの推移を想定し、そこから現時点における「現在価値」を導き出すことによって妥当な買収価格を確定させる流れについての説明は、ただ外から見ていただけではよくわからなかった「買収価格」決定のための裏付けの算出プロセスがよくわかり興味深い。
上場企業が買収される場合であれば、現時点における対象企業の財務情報は公開されている。買収金額から、買収する側の企業が買収される側の価値をどのように判断したのかが逆に解るわけで、はたしてその買収価格が「安いのか高いのか」ということについても漠然とした単純な金額の大きさというだけではない形で理解することができるようになる。
そして、実際に買収された結果をどのように評価するのかについてまでが本書においては扱われている。株主の立場としては、明確に数値化することによって買収効果を評価する手法としては「1株あたりの利益の増減(EPS)」が判断基準として使用されるが、その他にもPERやEBITDA倍率を用いた検証など、本書が扱う内容はかなり専門的だ。算出計算を個人株主のレベルで行う必要はないとは思うが、発表されたそれらの数字はどういう意味で、どう判断すべきなのかは市場ルールにも基づいてプレーするのであれば前提となるといっても良い必要知識といえるかもしれない。
そして本章の最後には、ここまでM&Aについて解説をしておきながら、M&Aをすすめる前に改めて確認しておくべき点を提示し、安易なM&Aの実施に釘を刺している点もよいのではないかと思う。

本章はコーポレートファイナンス最大のポイントともいえる買収プロセスについて解説している。ここは非常に限られた世界であり、求められるスキルも特殊といえるかもしれない。しかし企業の合掌連合買収は最近ではもはや普通に身の回りであることであり、自分の会社が買収したり・買収されたりすることが起こらないとはいえない。どちらの立場となるとしても、合意された買収価格からは単純な金額の大きさだけではない、会社の価値に対する客観的な判断結果が見えてくる。
本章では入札形式での買収プロセスのパターンについて、その流れに沿って丁寧に説明がされている。企業における買収の形態はいろいろあるものの、入札形式のM&Aは比較的理解しやすく、政治的な力よりも評価結果に基づく数字がより明確に出るパターンとして分析に向いているのだろう。
入札形式では一般的に、分析・企業価値評価→1次交渉→デューデリジェンス→2次交渉→クロージングという流れでプロセスが進められていく。各段階における必要な事項、そしてそれらの事項を的確に判断するための考え方など、本書では非常に平易に説明がされているが、そこに含まれるノウハウの価値は非常に高い。よくぞここまで一般向けの書籍でこのプロセスの要素を解説するものだと思う。
さて、またしても長くなってきたので、続きは(3)で…。