書評:『工作少年の日々 UNDER CONSTRUCTION FOREVER』森博嗣/集英社文庫

いい意味で、素の森博嗣をかいま見ることが出来る1冊。森博嗣の小説ファンが必ずしも読まなければならない本ではないが、森博嗣の生き方におけるスタンス?みたいなものが少しでも共感できる人には読む価値がある。特に、森博嗣のガレージ建築顛末を綴った『アンチハウス ANTI HOUSE』なんかを読んで面白いと感じてしまう人は必読だ。

工作少年の日々 (集英社文庫 も 24-2)

工作少年の日々 (集英社文庫 も 24-2)

エッセイ集なので、文庫本の裏側に書かれたあらすじ?を転載しても安心(といいながら、自分では読む前に裏のあらすじは絶対読まないくせに書いている駄目人間ですが)。

理工系ミステリィ作家の毎日は工作の連続だ。掃除機を分解修理し、ミニチュア鉄道を庭に敷設し、さらなる工作生活の充実のためにガレージまで建てて、夜な夜な旋盤を回し、部品を削る−。手になじんだ工具への愛着、空を駆ける模型飛行機への憧れ、パーツを探した模型店の思い出などにふれつつ、小説の創り方や人生哲学もさらりと語る、「モノを作る幸せ」に充ちたエッセイ集。

旋盤やらフライス盤やらで工作をし、庭園鉄道を敷設する生活に憧れるのか、といわれればそういうわけではないのだけれども、工作をしたり創作活動をしたりする、「創る」生活には強く共感する。カタチはどうであれ、モノを創り出すということほど面白いことはないと思う。大人が子供に示すべきことは、モノづくりの魅力を「教える」のではなく、「感じさせる」ことではないだろうか。なんでもいい、何かを創り出すことができる人生はきっと、価値がある。

  1. 散らかしの法則
  2. 不器用と不得意
  3. 憧れの工具
  4. 洗濯機と排水と粗大ゴミ
  5. ワープロ航法
  6. トンネル工事
  7. 工作スペース
  8. 工作と健康
  9. 工作材料の備蓄
  10. 僕の小説の書き方
  11. 忙しさとは
  12. 適材適所
  13. 時間の使い方
  14. 設計図どおりにいくか
  15. 模型屋慕情
  16. 飛行機の証明
  17. 線路が好き
  18. 小説という工作

森博嗣は小説はだれかにあげたりする気にはならないらしいが、エッセイ集であればあげたりすることもある、らしい。最初はなぜだろうと思っていたのだが、次第にその気持ちがわかってきた気がする。作品として、というよりも森博嗣にとって、という視点で考えれば、エッセイ集の方がよほどいい。

p.98 - 08 工作と健康 より抜粋
世の中を(というか自分の周辺を)ざっと見回して、ときどき感じていることを率直に言わせてもらうが(いつも言っているけれど)、なにかというと「健康が一番」と口癖のように言い続け、毎朝欠かさず散歩に出かけ、健康食品などにも気を遣っている人間ほど、どうもコンテンツがない。つまり、「何のために健康が必要なのか?」と問いたくなるのである。健康が生き甲斐という人は、喩えるならば、暴走もなく非常に安定しているパソコンだが、アプリケーションが何一つ入っていない、みたいなものではないだろうか。パソコンに詳しい方はわかると思う。アプリケーションをいろいろインストールして、さまざまなことに「使える」ようになったパソコンほど、暴走する危険性が高い。ようは、なにもしなければ、たいがいのパソコンは非常に安定しているし、つまり健康なのだ。

この文章でにやりとしてしまった方はぜひ、本書を。