書評:『すべてがFになる』森博嗣/講談社文庫

すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

ということで?、『φは壊れたね』で森博嗣スイッチが入ったので、ここはS&Mシリーズ10冊制覇をとりあえず目指して第1作『すべてがFになる』からスタート。作品自体は11年前、文庫化も9年前ということで、BookOff買い。
10年以上も前の作品であることを感じさせない、著者の小説家としての処女作なだけあって力の入ったよいミステリー作品であった(実際には著者は本書を4作目として想定しており、出版時点で4作を書き上げていたのだが)。
舞台となっているソフトウェア研究所の描写や、重要なキーとして登場する研究所の基幹システムRed Magicについても、ほとんどの部分では今読んでも古い感じはしない。一部、おそらく著者の想像を超えてこの10年で進歩した部分もあるが、これだけ的確にシステム像を描いているところは、さすが著者ならではと思う。

孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人事件に挑む。新しい形の本格ミステリィ登場。

それにしても、ミステリーのプロットを考える上で便利な役者がそろった作品だった。
大学教授(→助教授だけど犀川創平)、
学生、お金持ち(→西之園萌絵)、
研究所、孤島(→真賀田研究所)、
天才(→真賀田四季博士)、
完璧なシステム(Red Magic)。
この何でもできる自由度の高い駒を配置してストーリーや構成、ミステリーの肝がダメだと非常につまらない駄作になってしまいそうだが、そこはさすがに森博嗣。衝撃デビューの処女作からしっかりとまとめあげた作品に仕上がっている。ストーリー展開、予想外な展開、そしてすべてが収まるべきところに収まる結末。やはりというか、残念ながらというか、やはりミステリーは翻訳物よりも、元々日本語で書かれ、舞台として違和感のない世界(=おおよそ日本か、イメージできる範囲の外国)が用意され、そしてなんといっても著者自身が記した文字そのままで創られている世界を堪能できる作品の方が読み応えがある。
S&Mシリーズはあと9作。じっくり読み進めるべきか、一気に読み進めてしまうべきか。悩ましいですね。