書評:『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』紙屋高雪(文)・きあ(絵)/築地書館

本が好き!プロジェクト powered by livedoor より指名献本御礼。


オタクコミュニスト超絶マンガ評論

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書評/サブカルチャー

書評依頼を頂いた際にもBlogで書いたが、マンガ評論ということで、主にマンガ(マンガ以外の評論も数多く掲載されているので)のいわゆる書評が書かれている本をさらに書評するという行為はとても難しい。たしかに考えてみると、本やマンガは誰もが好きだから、自分が気に入ったから読むのであって、別に他人にどうこう言われたくはないというか、別に他人がどう評価していようと自分がよければよいといったものなので、書評という行為自体読んでもらうことすら難しい文章だ(本書の中でも書評の難しさについて書かれた部分があるのであるが、そこについては後述)。正直な話、このBlogで書き続けている書評も半分は自己満足というか、自分の読書記録の一環としての行為だ。それくらいの気持ちでやらないと続けられない。もちろん、このBlogを通じて私の紹介した本を手に取ってくれる方が1人でもいればとも思って書いているのだけれども。
そんなわけで書評は書く方にも読む方にも難しいものであるのだが、同時に、Blogなどで書評/紹介されていた書籍に興味を持ち、手に取ってみるきっかけとなるという意味では、書評はとても大きな価値がある。自分がRSS購読してるBlogなどで、自分や関心を持っている人が読んでいた、そしていい評価をしていた本というものは気になるし、少なくとも書店で見つけたらちょっと手に取ってなかをパラパラと覗いてみるくらいのことはする。その結果、実際に購入に至ったり、さらにはファンになったり、その著者が書いた他の著作にも手が伸びたりすることはあるからだ。個人的にもdankogaiさんのblog"404 blog not found"で書評されていた本の多くを手に取り、そしてそれなりの数の書籍を実際に購入している。その他にも何人かのBlogにおける投稿をきっかけとして手に取った本は多い。そして同時に、本が好き!の献本によってきっかけを得た本もこの1年、かなりの数があった。本書も、献本頂くというきっかけがなければ絶対に読まなかった、書店で見かけても手にすら取らなかったであろう分類に入る1冊だ。
本書との出会いは本が好き!プロジェクトから指名献本の依頼メールをもらったところから始まる。以下、依頼メールより一部抜粋。

このたびの献本については、アマゾンさんやBk1さんなどのインターネット書店さんへの
書評投稿もお願いしたく、追伸失礼させていただきました。
なぜ今回改めてお願いさせていただいたかというと、
今回の『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』は、
「本が好き!」によるプロモーションを主軸として営業活動を展開しています。
私にとっては弊社の売り上げももちろん大事なのですが、
なにより、ブロガーのみなさまのお力をお借りして良い結果を残す事により、
「本が好き!」という場所自体を盛り上げていきたいと考えているからです。
このキャンペーンが注目されれば、新しい版元の参入や、献本冊数の増加も見込めますし、
なにより、現在書籍のパブリシティが、ほぼ新聞・雑誌等の大手メディアの書評に限られる中で、
書籍の広がり方に関しても、「個人の力」を世間にアピールする良い契機であると思います。
(そういえば、2006年のタイム誌による「Person of the Year」も「You」でしたし、この本
自体も「無名の個人」がインターネット上で発表しているマンガ評論をまとめたものでした。)
私自身も、インターネットによる個人の力を感じたいという、ごく個人的なモチベーションもあって動いております。
もちろん、書評者のみなさまの貴重なお時間をいただくことになってしまうため、無理は申せませんが、
気が向いた時には是非、よろしくお願いいたします。

本が好き!プロジェクトによるプロモーションを主軸にするとは、築地書館さんもずいぶん思い切ったことをするなぁと思うのだが、たしかに書籍の広告は新聞や雑誌等の非常にコストのかかる媒体がメインであり、よほど売れる自身がある作品ならともかく、本書のような書籍についてはこうしたBlogなどを通じた「じわじわと広がる」プロモーションこそ向いているのかもしれない。事実、本書はdankogaiさんのblog、404 blog not foundにおいても書評が掲載されており、その結果、少なくとも数十万の人には本書の書評が伝わっている。本blogも微力ながら、お役に立てれば良いのだが。

タイトルにもある通り、著者がコミュニスト(共産主義者)ということもあって、タイトルのみならず内容も多少左翼気味ではあるのだけれども、本書は書籍化されるだけのこともあって読める評論が並んでいる。つまらない書評を書いている私から見ると、それだけでもすごいことなのだけれども、本書は『オタクコミュニスト超絶マンガ評論』というタイトルに反して?あまりそのマンガ自体について熱く語っている訳ではないところが本書の特徴かもしれない。だから書評、ではなく論評、なのかもしれないけれども。
本書ではもちろんマンガ自体の説明や思うところなどについては触れているのだが、どちらかというとそれらのマンガの内容や世界観を前提として、著者の持論を展開することにより紙面を割いている。そういう意味では、本書で紹介されているマンガなどを読んでいることがそもそも本書を楽しむ前提になることは確かであるのだが、全部を読んでいる人だけを対象としていたら本書の読者はいなくなってしまうであろうし、実際に読んでいなくてもその作品に興味を持つことができる文章が綴られている。書評の類いの文章として、その作品を読んだことがない人に「この本を読んでみたい」と思わさせることができることほど書き手としてうれしいことはないだろう。
本書の中でも面白かったのが、「エビちゃんシアター」に対する痛烈な批評なのだが、これについてはぜひ本書を手にとって読んでもらうとして、同じぐらい面白かった読書感想文に体する作者の意見を最後に紹介。

p.264
小中高生読書感想文など書かせることは、至難なのだ。うん、まだ高校生なら何とかなるかもしれないが、小学生や中学生に書かせるのは、本当に酷だと思う。(中略)読書感想文は、まず「何が書かれているか」をつかんだだけではダメなのだ。書かれていることを理解したうえで、「それを自分がどう思ったのか」を対象化せねばならない。これが一苦労である。(中略)読書感想文はそれでは終わらない。対象化した上で、文章、しかも一まとまりの分量をもった文章に仕上げねばならない。もう気が遠くなる作業だ。

この文章は、著者のホームページに掲載されている「博士の愛した数式」の感想文に対して夏休み明けに膨大なアクセスがあり、さらに「先生に検索されるとイヤなので、削除して」という要求や「コンクールに出すといわれたらどう対処すればよいか」といった悩み相談まで来たことから始まっているのだが、書評を「好きで」書いている側の立場である著者の「読書感想文というもの」に対しての意見であるところが興味深い。

p.268
学校の読書感想文には、子供たちが「ワクワク」しそうな本、漫画はもちろん、ライトノベルさえ外していることが多い。そして、「課題図書」「推薦図書」などという「ワク」を押しつけられた日にはもういけない。

たしかに小中学生の頃に、どんな作品について感想文を書かさせられたのかなど全然覚えていない。「ドラゴンボール」や、好きで読んだミヒャエル・エンデの「モモ」についてはこれほどまではっきりと覚えているし、その後につながっている気がするのに対して。
なるほど、本書が「超絶マンガ評論」なるタイトル付けがされているのも、著者のそうした状況に対するアンチテーゼなんでしょうね。