書評:『ペトロバグ−禁断の石油生成菌』高嶋哲夫/文春文庫

ペトロバグ―禁断の石油生成菌 (文春文庫)

ペトロバグ―禁断の石油生成菌 (文春文庫)

原作が映画化された(「ミッドナイトイーグル」)ことで一躍有名になった高嶋哲夫の文庫版最新作。ミッドナイトイーグルは原作も読んでいないし、映画も観ていないが、なるほどたしかに科学的な知識に裏付けされていて文章力と構成力がある作家だということが本書を読んで伝わってきた。
それもそのはず、著者は慶応の工学部を大学院修士課程までを修了し、その後日本原子力研究所の研究員を経てカリフォルニア大学に進学したというバリバリの理系脳を持つエンジニア作家だった。地震や金融、環境異変に高性能爆弾、そして細菌と、そのテーマとして扱っている科学分野は幅広いが、ベースとなるスキルを持っているだけのことはあって、読者を引きつける世界観はさすがだ。

天才科学者山之内明が発明した奇跡の石油生成菌ペトロバグ。世界の石油市場を根本から覆す大発明に脅威を感じた国際石油資本OPECは双方とも山之内拉致、殺害とペトロバグ略奪の指令を発した。だが、ペトロバグは恐怖の殺人生物兵器であることが判明、山之内は暗殺者に追われながら重大な決意を固める。

テーマがテーマなだけに、下手をするとまとまりのない、かつ薄っぺらい内容になってしまいがちな大風呂敷を広げた感が出てしまいかねない内容を上手くまとめ、世界的な謀略の動きと個人的な感情の動きの両面をしっかりと織りなすことができる著者ならではの作品といえるだろう。
結末は少々クサすぎるというか、予想できてしまう結末ではあったものの、読んでいて映像がリアルにイメージできる描写力は、やはり映画の原作として採用されるだけのことはある。科学技術サイエンスもの?好きの方にはおすすめな1冊。