本が好き! powered by Livedoorより献本。
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- 中田 亨
- 化学同人
- 1680円
livedoor BOOKS
書評/サイエンス
期待以上に読み応えのあった一冊。
ヒューマンエラーはなくならない。しかし、予防し、抑止することはできるというスタンスで著者がこれまで研究してきた理論が平易に説明される。非常に汎用的な内容を扱いながらもとてもイメージしやすい。
著者によるWebサイトにある「東大で学んだ卒業論文の書き方★論文の書き方」ははてブで3500エントリー越え。文章の達人が自分の専門分野について書いた本なのだから、分かりやすくてバランスのよい内容になっていることもうなづける。
本書は目次に目を通すだけでも価値があると思うので、いつもよりちょっと詳細に目次を紹介。
目次
- 第1章 ヒューマンエラーとは何か
- 1. 涙も凍るヒューマンエラー
- まさか患者が入れ替わるとはー思いこみによる医療事故
- たぶん大丈夫ー勘違いによる航空事故
- 規則を守る意思がないーどケチ経営による工場事故
- 見落とされた警告ー入力ミスが引き起こす事故
- 2. ヒューマンエラーは根深い問題
- 何をヒューマンエラーと呼ぶか
- 事故の背後にヒューマンエラーあり
- 深刻な事故を招くヒューマンエラー
- 第2章 なぜ事故は起こるのか
- 1. 事故とは何か?
- 事故の特徴
- 異常の判断基準ーフレーム問題
- 2. 事故は起こらなくなるか
- 異常に気づくタイミング
- 事故が起こるとき
- 事故の罠から逃れる
- 悪魔の証明と事故
- 3. やっぱり人はまちがえる
- 複雑にからむ事故原因
- 四枚カード問題
- まちがえる理由は不明
- 第3章 ヒューマンエラー解決法
- 1. 問題の捉え方
- 問題の捉え方が一番難しい
- 問題を捉え直す方法
- それでも問題は起こるもの
- 2. 問題解決への作業
- 誰が問題に取り組むべきか
- 立場の違いをなくす
- 部署縦割りの弊害
- タスクフォース(特命作業班)
- 柔軟性が問題を解決する
- 組織の風通しをよくする
- 3. 小さなミスこそ重要
- 4. 事故の責任は誰がとるべきか
- 専門性の罠
- 上司?当事者?
- 第4章 事故が起こる前に……ヒューマンエラー防止法
- 1. 三段がまえのエラー抑止
- 作業の行いやすさ
- 評価方法
- 本当に安全ですか?
- 異常に気づかせる
- ヒューマンエラーに気づかせる15の方法
- 2. 大事故に発展させない方法
- 備えあれば憂いなし
- 大事故を想定する
- 第5章 実践 ヒューマンエラー防止活動
- 問題の共通点
- 解決の糸口は現場に
- 解決策は当人たちが知っている
- 第6章 あなただったらどう考えますか
- 第7章 学びとヒューマンエラー
- 学校のテストでまちがえるのはなぜ?
- 効率がいいからといっても…
- わかるということ
どうですか?目次を読んだだけでも気になることが多くありませんか?
p.12
ヒューマンエラーがほかの事故原因とは根本的に異なる点は、その恐怖にあります。ヒューマンエラーは権限を持った人間様が御自ら事故を進行させるため、非常に深刻な結末にいたることがあります。損害の量も深刻になりうるのですが、注目すべきは損害の質的な特殊性です。「なんでこんなに奇怪な事故が起こったのか?」という創造だにしなかった結果を生みだすのです。機械の故障による事故では、人がケガをしたとか、ものが壊れたといった、想像できる範囲の損害ですむことが多く、これとは対照的です。
ヒューマンエラーは完全に「なくす」ことはできないエラーであるからこそ、予防と抑止について考え続けていく必要がある。本書はヒューマンエラーについて体系的に説明されており、様々な実例もあわせて紹介されているので、自分の携わる職業や分野に関係なく読む価値がある。
p.21
実際の事故を分析するには、"原因の分類"よりも、"原因の統合"を考えるべきでしょう。
ヒューマンエラーが最も問題なのは、原因が複雑に絡み合った上に発生することにある。そして、エラーの原因を根本的に解決することは難しい。人間のミスや環境要因、"くせ"や"忘れ"など、人間がやることを完全に制御することはできないからだ。
人間にはひとそれぞれのくせや能力差があるが、多くの人間に共通する能力的な制限も多くある。どんなに体を鍛えている人でもギロチンマシーンにはさまれれば無傷では済まないし、どんなに集中力が持続できる人でも、意味のない文字の羅列を100万行ミスなく入力することはできない。
できる限りエラーが起こりにくい環境を用意し、できる限り人間の行動に無理をさせず(かつ、慣れさせすぎず)、それでいてコスト的な限度を持ってエラーを予防する。そしてもしエラーが発生した場合にも、その損害を最小限にとどめるための仕組みを用意し、エラーによる損害の拡大をできうる限り抑止する。
短絡的に考えても解決できない問題であるからこそ、ヒューマンエラーに対してどう対応するべきなのか、人間は考え続けていく必要がある。