書評:『次世代広告テクノロジー』織田浩一、高広伯彦、須田伸ほか著/ソフトバンククリエイティブ


次世代広告テクノロジー

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書評/ビジネス

まだ「どうなるかわからない」次世代広告の、さらにテクノロジーを語ろうという本なので、いい意味でまとまりがなく、方向性がない一冊。とはいえ、次世代の広告テクノロジーもこうした様々な試行錯誤の中から生まれていくのだと思うので、そういう意味で様々な意見に一冊で触れられる本書はお得な一冊なのかもしれない。
私にとって読む価値があった部分は、博報堂から電通そしてGoogleへと移り現在広告営業企画シニアマネージャを務めるという高広伯彦さんが書かれている部分だった。

p.47
広告主が出したいときに広告枠に出してきたのであって、適切に「整理」されてきたわけではない。そこでGoogleは「広告=情報」と再度捉え直し、「整理」を行うことで広告ビジネスを展開しているのである。この点が従来の広告ビジネスと大きく違っている点である。

Googleの広告の仕組みである検索連動型広告Googleが考え出したものではないが、Googleかその「広告の仕組み」を自社の理念の中にどう組み込んだのか。情報を整理しつくすことを目指すGoogleらしいやり方とは何なのか。

p.55
自分がゴルフに興味がなくなり、釣りに興味を転じたとしても、これまでの広告なら、きっとゴルフ関係の広告が送り続けられてくるだろう。一方、コンテンツをターゲッティングするということは、ユーザーの興味、何かの情報を知りたいという欲求に対して、それに合った広告を配信するので、ユーザーにとっては、自分に有益な情報であれば、いわゆるコンテンツであれ、広告であれどちらでもいいのだ。Googleは「世界中の情報を整理する」をミッションとしているが、こうした視点で、広告(という情報)も整理しているのである。

Googleで検索していたり、Gmailを使ったりしていて、Googleの広告の適度さは誰もが感じているところだろう。あまりにも過剰すぎず、かつ不要な情報を含まない適度さ。Googleの基本機能すぎてあまり最近は着目されることがないが、このマッチングに関する部分の改善は日々かなりのリソースを投入して進められているのだろう。

p.56
「その広告がユーザーにとって有益な情報であるかどうか」を常に判断しているので、これまでの広告では考えられない仕組みをAdWordsは持っている。最もそのフィロソフィーを顕著にあらわしているのが「クリック率(CTR)の低い広告は自動的に表示されなくなる」という仕組みだろう。普通の広告媒体取引で考えると、広告枠を買っているのだから自分の広告が消えるなんておかしい、となるのだが、Google AdWordsの場合、クリックあたりの課金や1000回表示あたりの課金なので、「枠を押さえてそれに広告費を支払う」というも出るとは著しく違う。あくまでも、広告のクリックや表示に対する"実績"に対してお支払いいただいているので、広告が出ていない=お金を頂戴しない、からできる。

その後もGoogleの広告表示に関する特徴をとてもわかりやすく解説している説明が続く。
そしてGoogle以外にも、本書には日本の様々なベンチャーなどの広告に対する取り組みが各社の立場から紹介されている。
広告が「広告主が提供するもの」から「消費者が洗濯するもの」に次第に比重を移しつつある現在において、その均衡がとられる点はどのあたりになるのか。様々な会社が、様々な形で模索しながら次世代の広告のすがた、そしてそれを実現するテクノロジーを作り出そうとしている現状をつかむきっかけとなることが本書のウリなのかもしれない。
広告関連の仕事をしている方だけでなく、広告を受け取る側であるすべての方にとって、もし広告というもの自体に興味があるのであれば、読む価値のある一冊だと思う。