書評:『グラミンフォンという奇跡「つながり」から始まるグローバル経済の大転換』ニコラス・P・サリバン 著,東方雅美・渡部典子 訳


グラミンフォンという奇跡 「つながり」から始まるグローバル経済の大転換

Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/経済・金融

グラミンという単語は、グラミン銀行とその総裁ムハマド・ユヌスノーベル平和賞を2006年に受賞したことで知っていたが、グラミンフォンという存在は本書を読むまでよく理解していなかった。マイクロファイナンスというすばらしい仕組みを作り出し、そして実践してきたグラミン銀行に対して、グラミンフォンがどれだけの変化をもたらしたのか、そこにはグラミン銀行と比較しても劣らない、それどころか可能性としてはグラミン銀行よりも大きなものを持っていることが本書を通じてわかった。

p.2
カーディアは、バングラデシュでのちにグラミンフォントなる携帯電話会社の骨格を作った、先見性のある企業家だ。グラミンフォンはノルウェーのテレノールと、バングラデシュでマイクロファイナンス事業を営む伝統的なグラミン銀行の共同出資によって設立された。
バングラデシュは、国民一人当たりのGDPが約1ドルで、電話普及率は世界で最も低いレベルにあり、政府は世界で最も腐敗していると見なされている国だ。
しかし、その国で、グラミンフォンは事業として大きく成功した。

いわゆる発展途上国後進国とされる国における携帯電話の普及が持つ意味は大きい。先進国に住み、有線電話、自動車電話、ポケベル、PHS、携帯電話と次々と技術革新されてきた状況を経験していると、携帯電話は一種の「ぜいたく品」のように思えてくる。どの家にも有線電話が引かれているし、オフィスには各机に電話機が置かれている。街中にも公衆電話があちこちにあって別に「必ずなければならない」ものではない。
しかし基本的なインフラが整備されていない国では、世界的に普及し、技術も価格も非常に「こなれた」携帯電話はいっきに人と人を結びつける基礎インフラとして世界を一変させる力をもっていた。「わざわざ道を歩き、会いに行かずして人とコミュニケーションすることができる」「これまでの限られていた情報から、誰もが情報にコンタクトできるようになる」、こうした携帯電話が持つ仕組みを都市だけにではなく農村にまで持ち込んだ「ビレッジフォン」という仕組みは経済へのつながりをより強固なものとし、そして経済的な自立を大きく助けることになった。

p.2
同社の成功の主な要因としては、「ビレッジフォン」プログラムが挙げられる。これはバングラデシュの6万8000の村のほとんどに電話を供給するというものだ(※)。以前はそれらの村には電話がなかった。
グラミンフォンは、その信条として「良いビジネスが良い経済をつくる(good business is good development)」という言葉を掲げている。
※詳しくは本文で解説されるが、各村のテレフォン・レディと呼ばれる女性たちが携帯電話を一台購入して村人に貸し、通話時間分の料金をもらうという形で展開される。

そうはいっても、グラミンフォンは順調に立ち上がり、そして期待されていたわけではない。グラミンフォンの成功までの苦闘、思わぬトラブル、そして挫折も描かれている。そうした険しい道を経てグラミンフォンを成功させた本書の登場人物たち。そして、単にグラミンフォンで終わらず、次のステップへの階段を上り始める。すでにグラミンフォンが起こしたうねりはすでに世界各地で新しい動きにつながっている。これまでは相手にされていなかった国、人たちを相手にした新しいビジネスを生み出した1つの大きな要素として、グラミンフォンという奇跡を本書を通じて知ることには価値があると思います。