vExpert Advent Calendar 12/4 エントリーです。
本日、皆さま待望の『Cisco ACI ポリシーベースのデータセンター アーキテクチャ/コンセプト/メソドロジー』がついに発売されました!!
Cisco ACI ポリシーベースのデータセンター アーキテクチャ/コンセプト/メソドロジー
- 作者: Lucien Avramov,Maurizio Portolani,株式会社クイープ,水島勇人
- 出版社/メーカー: インプレス
- 発売日: 2015/12/04
- メディア: Kindle版
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なお、本書の著者の一人 Lucien Avramov は大の日本好きでこれまでも何度も日本に訪問しております。まだ未定ですが、年明け2/24の開催を予定している ACI友の会#3 にもしかしたら…。乞うご期待。なお、Twitterでもつぶやきましたが、何らかのかたちで私とつながっている方で、本書を買ったという方には、ご希望であれば英語版の本書を差し上げます(私の手元に在庫がある限り…)。ACIの理解を深めるついでに英語の勉強にいかがですか?(^_^;) 何らかの方法でご連絡ください。
…と宣伝っぽい内容はそれくらいにして…vExpert Advent Calendarでこのネタはどうなんだってご意見もおありでしょうが…どなたか譲るよ!って書いたのに誰も手を上げないんだから仕方がない!縛りなしってルールだし!そして別に何かをディスるつもりもないし(^_^;)!!
そんなわけで、本エントリーでは『Cisco ACI ポリシーベースのデータセンター アーキテクチャ/コンセプト/メソドロジー』日本語版の出版を記念して?、いいとか悪いとかではない視点のCisco ACI (Application Centric Infrastructure) /VMware NSX論を少し書いてみたいと思います。お約束としては、あくまでも個人の意見、個人の視点です。会社の人間として喋るときにはちょっと別の言い方をしているかもしれません(^_^;)。また、あまりテクニカルに深くは踏み込みません。
本書『Cisco ACI ポリシーベースのデータセンター アーキテクチャ/コンセプト/メソドロジー』の英語版はほぼ1年前に出版されたものですので、ACIの情報としては残念ながらすでに最新の内容ではありません。原著が出版された時点ではまだ対応していなかった機能や構成が可能になっている部分もすでに沢山あります。今月リリース予定の新バージョンでも、すでにこちらのオフィシャルブログなどでも触れられている通り、かなり楽しみな機能が数多く追加・拡張されていく予定です。ACIは新しい製品ですので、まだまだ積極的に様々な機能が追加・拡張されているフェーズにありますが、そうした新機能の学習という目的には本書はあまり適していないかもしれません。しかしタイトルの通り、本書は主にはアーキテクチャ、コンセプト、メソドロジーなどといった、バージョンがあがったり機能が拡張されていったとしても陳腐化することのないそもそもの部分、つまりはACIの根本的な思想・考え方といった内容に比較的比重が多く割かれていますので、ACIを表面的な部分だけでなくしっかりと「どういう考え方に基づいてACIはデザインされているのか」といった基礎的な部分から理解されたい方にとっては、今読んでも十分にお役に立てる内容が詰まっているのではないかと思っています。
さて、本エントリーではACIそのものについてはあまり書くつもりはありません。そのあたりはぜひ本書をお読みください(しつこい?といっても、本書が売れても別に私には1円も入ってきませんけど)。このエントリーで書きたいテーマは「手段としてのネットワークを活用するために」といったようなふわっとした感じの内容です。
OpenStackやDocker、そしてもちろんSDNなど、最近はコンピューティングの側面から見てもネットワーキングの側面から見てもITインフラストラクチャに求められることが大きく変化しつつあります。トレンドや技術動向をしっかりと把握しておくことは大切ですが、そうした情報に流されて「わが社もクラウドだ!」「SDNを導入しよう!」などとそれ自体を目的化させてしまわずに、ぜひ自社のIT基盤に求められているもの、ひいてはビジネスを支える要素として求められているものは何なのか、といった目的をしっかり踏まえたうえで、手段としてこれらの新しい流れを活用することができるのかどうか、冷静に検討頂ければと思います。
この流れを生み出したきっかけはやはりサーバ仮想化技術にあるでしょう。2000年代中ごろから現在にかけてのVMwareの飛躍はまさにそれを体現したものといえます。サーバ仮想化はITインフラリソースをソフトウェア的に構成することができる時代への入り口を開いたと言えます。その流れはインターネットの普及と高速化と相まってパブリッククラウドへとつながり、そして現在では雲の向こう側かこちら側かなどといった違いを超えて、どのような形態であろうとも、ITリソースは「必要なときに、必要な対象に対して、必要なリソースを、必要なだけ」提供することを可能とするサービス化された仕組みが求められるようになりつつあります。
サーバの役割を持つコンピュートリソースは物理サーバであろうと仮想マシンであろうと、そして最近ではコンテナであろうとその上で提供されるサービスという視点から見るとどのような形態で仕組みが作られていようと関係ないわけで、ITインフラリソースの要素の中で最も論理化が進みやすい要素でした。そしてまずは「それまで使われていた」タイプの企業が必要としているいわゆるクライアントサーバ型的なエンタープライズアプリケーションであっても問題なく使用できるサーバ仮想化が普及し、そして「これから使われていく」タイプのモジュール同士がAPIやQueueで結び付きながらブラウザやアプリを通じて柔軟にサービスを提供していく新しいカタチのアプリケーションが次第に広まっていく中で、Dockerのようなもはや仮想化ですらないアプリケーション実行環境そのものを展開する仕組みへと発展しつつあります。
このITリソースのサービス化の流れは当然ストレージやネットワークにも波及し、その流れの中でネットワークの範囲としてはCiscoのACIやVMwareのNSXが登場してきたと言えます。
そんなACIは確かにネットワークのソリューションではあるのですが、その根本的な製品思想はこれまでの企業ネットワーク製品とは大きく異なっています。そういう意味では、既存ネットワークの延長線上として「ソフトウェア的に論理的なネットワークを作ることによってネットワークの構成管理運用の柔軟さと展開の速さを高めよう」という、いわゆるSDNという括りにも収まるのだろうか?と思う部分も多くあります。まぁSDNという括り自体も人それぞれなので、括りに収まるもなにもないのかもしれませんが。
また、SDNをどう捉えるのか、という問題でもあるかと思うのですが、SDNをソフトウェア「だけ」で実現する新たなネットワークと考えるのだとしたら、物理的なハードウェアスイッチであるNexus 9000シリーズに依存したソリューションであるACIはそもそもSDNではないということになってしまいます。しかし、SDNをソフトウェア「によって」実現する新たなネットワークと考えるのであれば、ACIの論理的な側面は完全にAPIによって制御が可能なソフトウェアとしての側面を持ちます。ハードウェアによる処理性能・安定性と、ソフトウェアによる論理的なデザインと構成、その両面をACIは併せ持っています。
ACIは単に「これまでのネットワークの要素をソフトウェア化する」(=ネットワーク仮想化?)ものではありません。ネットワークリソースにサービス化が求められるなら、それはどうあるべきなのか?という根底から検討し、それを実現する手段として最適なかたちを目指して製品化されたソリューションです。そんなわけで、ACIに対しては、わかりづらい/よくわからない、既存のネットワーク管理のノウハウやナレッジが通用しないのではないか、アプリケーション視点のポリシー管理?これまでとまったく違う管理手法を取り入れるのには抵抗がある、など等のご意見が多数あることは事実かと思っていますし、そうであるからこそ、ACIのアーキテクチャ、コンセプト、メソドロジーといった部分をご理解いただくために本書のようなものが必要だと思っています。
会社としても、そして世の中としても、CiscoのACIとVMwareのNSXは競合であるとして色々なところで扱われています。確かに「新しいネットワークのカタチ」としてお客様がいわゆるSDNを検討された際に土俵に上げられるソリューション同士であるという意味では、競合といえる部分はあるかと思います。しかし、両者を見ているとおそらく次第にこの2つのソリューションは別のものであるという認識が少しずつ理解されていくのではないかとも思っています。
NSXの強みの1つは、やはりvSphere環境との高い密結合にあると思います。vSphere環境を前提としたNSX-vとNiciraの流れを持つNSX-MHがありますが、おそらく前者が次第に拡大していく方向で統合されていくことになるのではないかと思われます(中の人じゃないので知りませんけど)。NSXのコンポーネントには仮想アプライアンスとしていわば仮想マシンの一種として存在している要素(主にNorth-South方向の通信に関わる)と、ESXiのVMkernelの中に組み込まれる要素(主にEast-West方向の通信に関わる)の両方がありますが、NSXの肝はVMkernelに組み込まれて動作する分散仮想ルータや分散仮想ファイアウォールにあると思います。VMkernelに組み込まれるからこそ、vSphere環境の仮想マシンとの親和性が非常に高く、かつ他社にはまねできないソリューションを実現することができているわけです*1。NSXはサーバ仮想化のESX同様にハードウェアとしてのネットワークに依存しない(土管化?)仕組みを実現することを基本思想として持っているので、仮想アプライアンスとKernelモジュールでネットワーク機能を実現する仕組みはそれを体現する実装といえると思います。
逆にACIは、特定のホスト側の仕組みには依存しない、ということを設計思想に持つ疎結合型のソリューションです。特定のHypervisor、特定のOS、物理仮想の違いなどに依存せずに、あらゆるコンピューティングの形態に対して統一されたポリシーを提供することができます。しかし逆にハードウェアとしてのネットワークには強く依存する実装であるため、物理スイッチであるNexus 9000、そして物理アプライアンスとして提供されているAPIC (Application Policy Infrastructure Controller)と、ACIを使用するためには前提としてハードウェアが必要です。ACIを多くの基盤でご利用いただきたいと考えていますが、誰もが必要とするものでもないとも考えています。論理的なネットワークを動的に追加・構成・管理・変更していく、いわばネットワークに柔軟性を求める使い方をしたいという場合にはACIはとても有用ですが、静的に安定して個々のスイッチが自立分散して動作していてシンプルに広帯域・低遅延の拡張性のあるネットワークが欲しいという場合には、ACIではなく、いわゆるイーサネットファブリック的な使い方の方が向いているかもしれません。また、これまでどおりの、各ネットワーク機器を個別に構成し、標準化されたルーティングプロトコルなどによって情報交換は行っても各機器は自立して動作する使われ方は、SDNの登場によって使われなくなるということもないと思います。これらの向き不向きは業種や規模というよりも、ネットワークに求めている「使い方」次第といえるでしょう。
この先しばらくの間はSDNという括りでCiscoのACIとVMwareのNSXについては両者の比較やら競り合いやら色々な情報がニュース記事や両社からの発表などによって出てくることになると思います。しかし、5年後ぐらいにはきっと、ルータとスイッチほどとは行かないまでも、CiscoのスイッチでいえばNexusとCatalystぐらいのカタチで目的や使われ方が違うものとして認知されるようになっているのではないでしょうか。
明日のvExpert Advent Calendarもなぜか私なので、明日はまったく今日とは正反対の感じで短めのエントリーでVMwareがらみの小ねたを紹介したいと思います。